山田洋次「東京家族」

 小津安二郎「東京物語」の「物語」「せりふ」「エピソード」をベースに、現代化したもの。
 時折「小津調」の生硬な台詞回しがあって、閉口だが(下手な役者がやるのは、恥ずかしい)、全体的には、それなりに仕上がっている。思ったほど、ひどくは、ないというところか。
 小津「東京物語」の、次女・香川京子、三男・大坂志郎に当たる人物をカット。
 特に「香川京子」役を切ったことにより、「東京物語」最大の突っ込みどころ(もっとも突っ込んだのは、ぼくの知る限り当ブログ★小津漬の味2『東京物語』東山千栄子の死因は原節子だった?★だけではあるが)が、解消された。
 「東京物語」最大の突っ込みどころというのは、68歳の老母・東山千栄子が、はっきり年齢は明示されないが、20代前半(少なくとも、小津セオリーに従えば、23歳以下であるはず)の末娘・香川京子を生むのは、当時としては相当の高齢出産であり、「通常」リアリズムとしては、どうなの、という点だ。「東京家族」では、末っ子の昌次(妻夫木聡)が、アラサー30代前半であろうため、「通常」リアリズムは、保たれたというところだろうか。
 ちなみに小津安郎映画の男の「昌」が、この山田洋版では、男「昌」になっているのは、わかってらっしゃるところで(★小津漬の味1淑女はナニを忘れても「二」は忘れない★)。

 以下、当ブログで問題にした、「東京物語」突っ込みどころも、本当にきれいに、解消させている。
◎老父の友人・東野英治郎なじみの居酒屋で、おかみ・桜むつ子に、本当に冗談抜きに罵倒される→
 居酒屋おかみ・風吹ジュンが、小林稔侍を嫌う理由を丁寧に描写(他の客の迷惑そうな様子など)
◎老父・笠智衆が午前様になった「程度」で、長女・杉村春子に、本当に冗談抜きに罵倒される→
 老父・橋爪功が、長女・中島朋子に罵倒されるのは、まあ、しょうがないかの丁寧な描写。ゲロとか(笑)
◎長男・山村聡の息子たちの、自分の父に対する、容赦のない罵倒→
 長男・西村雅彦への、息子の罵倒は、穏当なものに。
 家族でのお出かけ中止に激しく嫌悪する小津版長男を、野球の練習で、もともと祖父母と同行しない予定という、ある意味姑息な(笑)迂回作戦。
◎老父・笠智衆への、子供たち(主として長女・杉村)の激しい嫌悪が、違和感。映画の「現在」における、「神様」みたいにいいおじいさん・笠に対する激しい嫌悪には、どうしても違和感→
 老父・橋爪が、若いころ、いかに酒乱かつ威圧的な親父だったか、長女・中島、次男・妻夫木の、いかにももっともそうな嫌悪感を丁寧に描写。
◎いくらなんでも、旧友・笠が、今夜、泊めてくれと言っているのに、東野、十朱と二人も旧友がいながら、どちらも泊めてくれない→
 友人を小林一人だけにして、泊められない理由を丁寧に説明
◎長女・杉村は、「今夜、うちが(同業美容師たちとの)講習会の番だから」という理由で、老父母は「宿無し」になるのだが、単なる講習会なら、美容室店内などにとどまり?、スペース的にも時間的にも、老父母が家から、追い出されなければならない理由に乏しい?→
 町内会の祭り懇親会?つまり飲み会だから、まあ家中大騒ぎでは、老父母には、いてほしくない?
◎老母・東山が、旅館での睡眠不足でフラフラの翌日、夜中の12時まで、原節子のアパートで、起きている→
 老母・吉行和子は、「遅い時間まで」息子・妻夫木らと、会話、とあいまいに、逃がす。

 で、こういう「丁寧な説明」が、わかりやすい映画になってもいるし、映画を凡庸にしている、ということだろう。
 長くなったので、この話は、続きます。★→この駄文の続き★
◎追記◎もうひとつ、思い出したのは、当ブログ★小津漬の味2『東京物語』東山千栄子の死因は原節子だった?★で、書いたように、
 >最後、東山が死の床についた時に一家が集まって、尾道弁、東京弁、大阪弁を、けっして混じり合わせようとしないのは、考えてみると異様である。マイルドな、流れるような脚本と、演出にだまされてしまうけれども。これは父・中村雁治郎の急を聞いて駆けつけた小早川家の面々も同様で、大阪弁・名古屋弁・東京弁が一家を飛び交う。故郷に帰っても、もはや言葉すら違う家族たちの、(少なくとも)言葉上の極端な差異。
 この、あからさまな違和感が、「東京家族」では、解消されていた。
 中島朋子が、葬式で帰っていた故郷で、突然方言で話し、「あ、帰ってきたんで、なまっちゃった」というようなことを言う。
 自分で説明しているのは、ドラマとしては安易で、ダメなのだが、まあ、こういう形で「東京物語」の違和感、突っ込みどころを一つ一つ、つぶしていったのですね「東京家族」。
 正しいことではあるのだが、だからといって、映画は輝かない(笑)。

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この記事へのコメント

ナドレック
2013年02月08日 09:09
拙ブログにコメントをいただきありがとうございました。

>小津安二郎「東京物語」の「物語」「せりふ」「エピソード」をベースに、現代化したもの。

まったくそのとおりだと思います。
が、よく考えられた脚色ではあるものの、『東京物語』のとんがったところが丸められてしまったようにも思います。長女のギスギスした感じは、ギスギスし過ぎなところが『東京物語』の面白さでもあろうに、本作の長女はマイルドになってしまって少々物足りない気がします。
結局のところ小津映画は、リアルなようでいて実は誇張とケレンミに満ちており、それが魅力だったのではないかと今更のように感じました。
2013年02月09日 20:47
ナドレックさん、ども。
おっしゃるとおり、「通常」リアリズムを時に無視してまくって、しかしその上で、不思議な?あるいは卑怯な(笑)リアルを実現してしまう小津の、神業に比べれば、山田洋次、秀才の「限界」ですかね。
 小津の「卑怯」な部分を、理詰めで「改善」するも、心に響かず。
 山田洋次の「最終兵器」渥美清が存命なら、ぜひ「東京家族」に出演してほしかった。果たしてそれは祖父役か、長男役か(笑)。一番はまる役は、長女の夫役、あるいは祖父の友人役だろうが、それじゃ、当たり前すぎて、おかしくも、なんともないですしね(笑)。

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